通院困難患者問題

ソーシャルワーク実践に基づく地域の課題解決を目指して

石田   潔 医療ソーシャルワーカー
Ishida   Kiyoshi
修士 (地域社会マネジメント学、社会福祉学)
地域社会マネジメント研究科修了生、社会連携センター協力員

私の本業は病院に勤務するソーシャルワーカーです。ソーシャルワーカーとは、簡単にいうと社会のなかで弱い立場にある方々が、自分の望む健康で文化的な生活を送ることができるようにお手伝いをする仕事です。
私はこの仕事を通じて、社会のなかで理不尽にさらされる多くの方々と出会ってきました。
病気を理由に会社をクビになった人…
病気や怪我が原因で障害を負い、高い能力があるのに不当な賃金で雇用されている人…
体中が傷だらけなのに助けを求められない子ども…
このような立場にあることは、果たして個人の責任なのでしょうか?私はこのような状況を生み出す社会の構造に問題があると考えています。
ソーシャルワーカーはその職業が有する専門的な知識と技術で、社会のなかで様々な問題を抱えて悩み苦しんでいる方々の問題解決のお手伝いをするのと同時に、その価値をまちづくりにも役立て、誰もが安心して暮らし続けることのできるまちを形作っていく必要があると考えています。
そのための実践に、医療・介護・福祉に関連する多職種や地域住民とともに取り組んでいます。

キーワード
  • ソーシャルワーク
  • 通院困難患者
  • 多職種連携
  • 医療・介護連携
  • 地域包括ケア
  • 北海道小樽市

シーズ(研究)紹介

高齢社会の進展により、高齢者の買い物や通院といった移動手段の不足や確保が社会問題となっています。
国民生活基礎調査によると、65歳以上の高齢者の7割が何らかの疾患に罹患しています。高齢期に多い傷病の特徴としては、高血圧症や脳血管疾患、心疾患といった血管病変にともなう疾患、あるいは腰痛や関節痛をともなう整形疾患などが多く挙げられ、いずれの疾患も定期的・継続的な治療・経過観察が不可欠であり、高齢期における定期的な通院は、疾患の早期発見や増悪の予防、高齢期の健康を維持しながら要介護者の増加を予防するうえで極めて重要な課題であるといえます。また、通院困難の要因は、単に身体的機能や認知的機能の低下による個人要因によるものだけではなく、福祉関係制度等の不備や不足、交通交通の状況や地理的特性等、社会的な要因によっても顕在化することが想定されます。
以上のような問題について、私は北海道小樽市をフィールドとして、課題の実態を明らかにするべく調査・研究に取り組み、問題解決に向けた様々な方策について医療・介護・福祉関係多職種や地域住民、行政と協働して検討し、地域福祉計画や在宅医療・介護連携推進事業といった行政計画に反映させるなど、課題解決に向けて取り組んでいます。

 

 

実績と今後の活動予定

小樽市においては、2014年より国の示す「在宅医療・介護連携推進事業」の実施を目的に、「おたる地域包括ビジョン協議会」が設立されました。この協議会では、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、在宅医療と介護を一体的に提供するため、医療機関と介護事業所などの関係者の連携を推進することを目的に活動しています。その活動のひとつとして、通院困難患者問題に対する支援方策の検討を進めており、2023年9月に小樽市における通院困難患者問題の実態と課題を明らかにするために、小樽市内の居宅介護支援事業所等58か所を対象に「小樽市における通院困難事例実態調査」を実施し、市内僻地における通院困難実態の深刻さを明らかにし、課題解決に向けた方策について検討しました。
【公職】
・一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会 業務執行理事(2021年~)
・小樽地域包括ビジョン協議会 委員(2016年~)
・小樽市地域福祉計画策定委員会 委員(2019年~)

地域や産業界、自治体に向けて

通院困難患者問題は、制度の整備や介護サービスの質・量の確保といったフォーマルサービスのみならず、地域の互助的な助け合いや医療機関・介護事業者等の独自のサービスの実施など、多様なステークホルダーが協働することによる多角的な支援策を検討する必要があります。このような地域の福祉的課題に多くの方々に関心を寄せていただき、取り組みに参画していただけますと幸いに存じます。
関連情報