通院困難患者問題
ーソーシャルワーク実践に基づく地域包括ケアシステム構築に資する施策への接続-
現在は専門学校教員として、福祉人材の養成に携わっています。これまで長年にわたり医療ソーシャルワーカーとして実践を重ねてきましたが、立場が変わった現在も、自らをソーシャルワーカーであると捉えています。
ソーシャルワークとは、病気や障がい、生活上の困難などにより生きづらさを抱える方が、その人らしく地域で生活できるよう支援する専門的実践です。同時に、個人の困難を生み出している社会構造や制度の在り方に目を向け、それらを問い直す営みでもあります。
私はこれまでの実践経験を基盤に、個別支援の中で見えてきた共通課題を整理し、実践知を理論化し、政策形成へと接続する研究に取り組んでいます。教育現場に立つ現在も、実践と研究を往還させながら、地域包括ケアシステムの構築に資する施策の検討に力を注いでいます。
実践者としての視点と教育者としての役割を併せ持ち、次世代の福祉専門職育成と地域社会への還元を両立させることを目指しています。
シーズ(研究)紹介
高齢社会の進展に伴い、医療・介護へのアクセス確保は地域社会における重要な政策課題となっています。とりわけ「通院困難患者問題」は、単なる個人の身体機能低下の問題ではなく、生活環境、交通条件、家族関係、経済状況、社会的孤立、制度設計の不備など、複合的要因が絡み合う構造的課題です。
65歳以上の高齢者の約7割が何らかの慢性疾患を有しているとされる中、慢性疾患の管理には継続的な通院と定期的な医療介入が不可欠です。しかし、移動手段の喪失、家族介護力の低下、地域交通網の縮小、医療機関の偏在などにより、必要な医療にアクセスできない高齢者が増加しています。
本研究では、この通院困難患者問題を
①個人要因
②世帯・家族要因
③地域社会要因
④制度・政策要因
の多層構造として整理し、ソーシャルワーク実践に基づく実証的分析を行っています。
具体的には、退院支援事例の時系列プロセス分析、医療機関および地域包括支援センターとの連携事例の検討、自治体データを活用した地域特性の分析などを通じて、通院困難が発生するメカニズムを明らかにしています。
さらに、分析結果を医療計画、地域福祉計画、そして地域包括ケアシステム構築に資する施策へ接続し、制度設計や政策形成へ還元することを目的としています。
本研究の特徴は、医療ソーシャルワーカーとしての実践に立脚しながら、それを地域政策レベルへ理論化し、構造化している点にあります。実践知を政策知へと昇華させることを通じて、地域における持続可能な医療アクセス保障の仕組みづくりを目指しています。
実績と今後の活動予定
小樽市においては、2014年以降の在宅医療・介護連携推進事業を背景に、通院困難患者の実態把握および支援プロセスの分析に取り組んできました。2023年には市内医療機関を対象とした通院困難事例調査を実施し、医療機関側の認識や支援上の課題を明らかにしました。今後は、
・地域交通政策との連携
・ICTを活用した遠隔支援の可能性の検討
・医療・介護・福祉の連携モデルの構築
・自治体計画への政策提言
などを視野に入れ、実証研究と社会実装の両立を目指していきます。
【公職】・おたる国際福祉・観光専修学院 介護福祉学科 専任教員(2026年~)
・一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会 副会長(2025年~)
・おたる地域包括ビジョン協議会 委員(2016年~)
・小樽市地域福祉計画策定委員会 委員(2019年~)
地域や産業界、自治体に向けて
通院困難患者問題は、医療・介護分野にとどまらず、交通政策、都市計画、地域経済、ICT活用など、多様な分野と横断的に関連する課題です。そのため、地域・自治体・産業界との連携による実践的な取り組みが重要になります。■ 自治体向け
・地域福祉計画、地域包括ケア計画へのエビデンス提供
・通院困難実態調査の設計支援
・政策評価および効果測定支援
・多職種連携研修の企画・実施
■ 医療・介護事業者向け
・退院支援プロセスの可視化
・地域連携体制の構築支援
・困難事例分析ワークショップの実施
■ 交通・ICT・民間企業向け
・移動支援モデルの共同構築
・地域データを活用したニーズ分析
・高齢者支援サービスの社会実装支援
地域の実情に即したデータに基づき、実行可能な政策提言や事業設計を共同で進めることが可能です。







